まるで映画を見終わったような、余韻が残るマンガを読みました。
台湾出身のイラストレーターで漫画家、高妍さんの作品「緑の歌 – 収集群風 –」上下巻。
音楽に胸を打たれ、心を躍らせ、ステージを見つめながら「最高だ」と思える瞬間を経験したことがある方なら、きっと共感とともに眩しい時間を思い起こす作品です。
ジャンルを問わず、音楽をキッカケに人生や価値観の変わる出会いや経験をした方にはきっと響きます!
緑の歌 – 収集群風 – (高 妍 / KADOKAWA)
「緑の歌 – 収集群風 –」は台湾出身のイラストレーターで漫画家、高妍さんによる作品です。
KADOKAWA発行の「月刊コミックビーム」に連載後、日本と台湾で同時に発売されました。
表紙の絵やデザインの美しさからもすでに「なんかこれすごそう」感が漂っています。
しかもなんと!上巻の帯を元はっぴいえんどのドラマーで作詞家の松本隆さん、下巻の帯を作家の村上春樹さんが担当されているんです!
ねえ「細野」さん、ぼくらの歌が異国の少女の「イヤフォン」を通して、繊細な「孤独」を抱きしめたら。それって「素敵」だよね?
松本隆(作詞家)
緑の歌 – 収集群風 – (高 妍 / KADOKAWA)上巻の帯より
高妍(ガオイェン)さんの絵を初めて見たとき、何か強く心を惹かれるものがあって、この人の絵を是非使ってみたいと思った。そして僕の『猫を棄てる』という本のための挿絵を何枚も描いてもらった。おかげでそれはずいぶん素敵な本になった。
高妍さんの絵には物語を広げていくための、自然な空気の通り道のようなものがあって、それが見る人の心に心地よい、そしてどこか懐かしい共感を呼び起こす。
村上春樹(作家)
緑の歌 – 収集群風 – (高 妍 / KADOKAWA)下巻の帯より
これ「豪華だねぇ」どころじゃなくてっ!
作品読んだらとんでもなく胸熱なんですよっっ!!!なんて素敵なことでしょう。泣きそう。
物語のあらすじ
台湾の海辺の街に暮らす高校生、林緑(リン・リュ)は、偶然プレイリストに出てきた初めて聴く曲『風をあつめて』になぜか懐かしい魅力を感じる。
ただその曲を聴きながら目にしたコトは、誰にも言えないままだった。
その後進学した台北の大学には馴染めず、ライブや小説を心の拠り所としている緑。
文学賞の落選に落ち込み「本当に最悪」と涙するなか「海辺のカフカ」というライブハウスでバンドマンの南峻(ナンジュン)と出会い、励まされる。
村上春樹の小説『ノルウェイの森』にちなんだ「ミドリ」というあだ名で呼ばれ、交流を重ねるふたり。
緑の心の中で、南峻と細野晴臣の存在、日本のサブカルチャーへの興味がどんどん大きくなっていく。
緻密に紡がれた主人公の心情から日本のアーティストや作品に対する大きな愛と敬意を感じる作品。
実在するアーティストや曲、場所が多く登場するので、懐かしさや親近感を感じる方も多いはず
著者の高妍(Gao Yan/ガオ イェン)さんについて
1996年に台湾・台北に生まれた著者、高妍(Gao Yan/ガオ イェン)さん。
日本のアニメや漫画を見て育ち、台湾の芸術大学出身で、沖縄の芸術大学にも短期留学の経験があるそうです。
初めて日本を訪れた時の目標は物語の主人公「緑」と同じく「はっぴいえんど」のアルバムを買うことだったとか。
イラストレーター・漫画家として台湾と日本で活動されていて、村上春樹さんの作品『猫を棄てる 父親について語るとき』(文藝春秋)の装画や細野晴臣さんのデビュー50周年記念ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』台湾版のイラストとデザインも担当されています。
この作品についてのインタビューで、高妍さん自身が「90%は私小説みたいなもの」と語っておられました
緑の歌 – 収集群風 – 上下巻を読んだ感想
とにかく描写がリアル!!!
日記のように綴られる言葉に、風の温度まで伝わってきそうな風景描写。
主人公の瑞々しさもとても繊細に描かれています。
正直言うと、上巻を読みはじた時点では「ちょっとリアル描写すぎて読み疲れちゃうかも」と思ったんです。
でも読み進めるうちにしっかり惹きこまれ、過去の自分の経験と溶け合った映像を見ている気分に。
「すごい音楽に出会ってしまったかも」と興奮した瞬間や、「なんて話かけよう」とドキドキした時間、ライブ会場の熱気、咄嗟につく嘘や、メールに電話。
CDプレイヤーで聴く音楽。
いつのまにか薄れていた記憶が、トレースされるように蘇ります。
読みながら「きっとそうだろう」と感じた通り、下巻の「あとがき」やwebのインタビューによるとこの物語は著者自身の経験をベースに紡がれているそう。
だからあんなにリアルなドキドキが描けるんだ!!納得。
それにしても再現度がすごすぎませんか。
読み終わる頃には記憶と物語の余韻に色がつき、じんわり切ない気持ちになりました。
普段自分では使わない表現なんですが、こういうのをきっと「エモい」と言うのだろうと思います。
あと、とても細かいところだけど下巻「あとがき」ページのデザインも素敵。
本当に細部まで丁寧で魅せられるこの作品、ぜひ多くの方に読んでもらいたいです。
ライブ通いに救いを感じていた過去は思い返すと「ちょっと痛い」ところもあったけれど、私の人生にとってかけがえのない時間でした
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